仕事が上手になる。会社で上に上がっていくためには、「下積み」が必要です。
ここでいう下積みとは、なんでしょうか?

あなたが「料理屋さんの料理長になりたい」と思って、その極意を学びたいなら、学校に勉強に行くよりも、名門といわれる料亭で修行をさせてもらったほうがよい。これは料理だけでなく、大工といった職人の世界、ビジネスの世界にも共通することだと思います。
 料亭に入ると、最初に何をさせられるかといえば、下足番です。下足番なら誰でもできると思うかもしれませんが、名代の料亭では靴を預かる際に下足番を渡しません。だから、どれが誰の靴か覚えないといけない。冷暖房がないところで、ただひたすらお客さんを待つ。ここから修行が始まるのです。
 そして、間違えずに靴を出すことができるようになったら、料理長が「ところでどうやった?」と聞いてくるでしょう。そこで「『どうやった?』というのはどういうことでしょうか?」と聞き返してはいけません。料理長が聞きたいのは、「紅葉の間のお客さんですけど、帰り際に靴紐を結びながら『三つ目に出てきた料理はおいしくなかったな』と言っていました。桐の間のお客さんは『今日はどれもこれもうまかったなあ』と言って帰られましたよ」という情報だからです。
 そういうことができるようになると、「君も長い間下足番をやったから、次は皿洗いや」となる。そこから明けても暮れても皿洗い。それでも今度も「君、今日はどうやった?」と聞かれるわけです。そこで、「あのお客さんの二番目の料理はほとんど残していました。でも、四番目の料理の皿はきれいなもので、何も残っていませんでした」と答える。そういうことの積み重ねでしか、人は成長できません。
 それで数年経ってようやく「そろそろ汁でもやってみるか?」となって朝早くから夜遅くまで修行する。会社でいえば、まさにプレイングマネージャー。下足番、皿洗いから始めて全部やってきたからこそ、将来、大料理長になれるのです。

ここでの「プレイングマネージャー」「全部やってきたからこそ」という部分が重要なわけです。これが下積みです。もちろん、全部やるのは、大変なことです。一朝一夕でできるものではありません。何年もかけて、やっと1つの仕事を理解して、そこから新しい仕事を覚えていく。
下積みを嫌がるのも理解できます。が、その下積みなくして、仕事を覚えることはできません。

これは、経営者にとっても同じです。会社の中において、経営者ができない仕事があってはいけません。経営者が社員に負ける部分があったとしても、できない仕事があってはいけない、ということです。失敗からの改善をするにしても、その失敗について詳しくなければ改善はできません。そのためには、詳しく知る、下積み経験が必要になるということです。
この下積みの苦労は、必ず、将来大きな財産になるはずです。