㈱牛コンサル 酪農コンサルタント 代表中野です。

フリースブームの時は倍々ゲームで、どんどん売れる。商品の梱包を解き、バックヤードから品出しをして、陳列棚に並べるそばから売れていく。何の努力もいらない。あんなに簡単に売れるのだったら商売でも何でもない。このままだと感覚が麻痺し、いつでも簡単に売れると錯覚してしまうかもしれない。

柳生正

マーケティングなどの教科書を読んでいると、売るのではなく売れる仕組み、勝手に売れる仕組みを作ることが大事だ!というような、事が書かれている。確かに、黙っていても売れる仕組みをつくれば、会社の負担は減り、経営は良くなるように思うし、経営者の負担も減っていく、ように思える。
また、そうやって本にも書いてある。

一方で、柳生さんの本に書いてあるように、「その状態が当たり前になったのちに」会社がどうなってしまうのか・・・世の中には1発屋という言葉もある。2発屋はそうそう聞かない。勝手に売れる仕組みを作ったとしても、それがいつまで続くものでは決してない。その売れなくなった時に、果たして、気持ちを切り替えて、泥臭く、イチから「営業」ができるのであろうか。
多くの会社、社員、経営者は、今までの過去の栄光に胡座をかいて、「何とかなるさ」とか「我々は大丈夫」というような根拠のない自信だけで、本当に必要なモノをそこから作れるのだろうか。
いつでも簡単に売れる・・・なんて事態はあり得ない、本気で思えるのだろうか?

いつでも簡単に売れる・・という事が、酪農では当たり前に起きている。搾れば、農協とホクレン(指定団体)が買い取ってくれる、という構造は、非常に似ている。いつの間にか、指定団体が買い取るのは当たり前!だという風潮さえある。
本当は当たり前のことではないのに。
事実、指定団体、乳業メーカーの先にいる消費者がどんな行動をするかによって、酪農経営は左右されている。現状、消費者はインフレの影響を受け、あらゆる食品の価格が上がっている。だから、牛乳も当然高くても仕方ない・・・と思うのは、販売側の理屈であり、消費者は残念ながら、世界共通で少しでも安いモノが欲しい。その結果、大手メーカーの300円近い牛乳はスーパーの棚から姿を消し、マイナーの200円前後の牛乳が売れている。これが事実である。この消費者の行動によって、乳価格が決定されるのである。ちなみに、大手乳業メーカーの飲用向けは赤字部門となっている。

搾れば、買ってくれるのが当たり前。棚に出せば、買ってくれるお客がいるのは当たり前。同じ状況ではないだろうか。この状態に、危機感を持てるかどうか。この状態が正常ではない、一元集荷が無くなると言わないが、自分の希望する価格で売れるのが当たり前とは思えない・・・そういった危機感が必要だろう。
もしも、自分の希望する価格で売りたいのであれば、それなりの「投資」と「リスク」を許容する必要があるだろう。
今の自分の経営において、売上を最大化し、経費を最小化する、を実行していくのか、リスクを承知の上で、乳価を上げる投資に打って出るのか、酪農経営者なら考えておかなくてはならないだろう。